この2つの違い知っていますか?
「私、フリーランスで働いています」
「個人事業主として活動しています」
このような自己紹介を聞いたことはありませんか?
SNSやビジネス関連の会話で、これらのワードは日常的に使われています。
しかし、この2つの言葉の正確な違いを説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。
「フリーランスと個人事業主って同じ意味じゃないの?」
「開業届を出したらフリーランスから個人事業主になるの?」
「法的にはどっちがどういう立場なの?」
こうした疑問を持ったまま、なんとなく言葉を使い分けている方も多いはずです。
実は、この2つの言葉の違いを正確に理解することは、これから独立を考えている方にとって非常に重要なポイントとなります。
なぜなら、あなたのビジネスの立ち位置や税制上の扱い、社会的信用などに大きく影響するからです。
この記事では、フリーランスと個人事業主の違いをわかりやすく解説し、あなたがどちらの道を選ぶべきか判断するための材料を提供します。
「働き方改革」が叫ばれる現代、多様な働き方を理解することは、あなたのキャリア戦略を考える上で大きな助けになるでしょう。
フリーランスとは?(言葉の定義)
フリーランスの基本的な定義
フリーランスとは、特定の企業や団体に属さず、独立して仕事を請け負う「働き方」を指します。
語源は「自由な槍」を意味するfreelanceで、中世ヨーロッパで特定の君主に仕えず自由に戦う傭兵を表していました。
現代では、組織に縛られず自由に仕事を選ぶ働き手を指す言葉として定着しています。
フリーランスの特徴
- 雇用関係がない: 会社員のような雇用契約ではなく、業務委託契約などで仕事を受ける
- 複数のクライアントと取引可能: 一社専属ではなく、複数の取引先から仕事を受けられる
- 働く時間や場所の自由度が高い: 自分のペースで仕事ができる(納期などの制約はある)
- 仕事内容を自分で選べる: 興味や得意分野に特化した仕事を選択できる
代表的なフリーランスの職種例
- ライター/編集者
- Webデザイナー/グラフィックデザイナー
- プログラマー/エンジニア
- 翻訳者/通訳者
- カメラマン/映像クリエイター
- コンサルタント/講師
- イラストレーター/アーティスト
フリーランスの法的位置づけ
重要なポイントとして、フリーランスは法律で明確に定義された身分や制度ではありません。
あくまで「特定の会社に属さない自由な働き方」を表す一般的な呼称です。
つまり、法律上の正式な分類というよりは、社会通念上の働き方を表す言葉という意味合いになります。
個人事業主とは?(制度の定義)
個人事業主の基本的な定義
個人事業主とは、法人を設立せずに個人の名義で事業を行う事業者のことで、税法上の分類として明確に位置づけられています。
最大の特徴は、税務署に「個人事業の開業届出書」を提出していることです。
この開業届の提出によって、税務上・法律上で「事業を行う個人」として正式に認められます。
個人事業主の特徴
- 開業届の提出: 事業開始から1ヶ月以内に税務署へ提出する義務がある
- 確定申告の義務: 年に一度の確定申告を行う必要がある
- 税法上の事業所得: 給与所得ではなく事業所得として扱われる
- 屋号の使用: 個人名ではなく屋号(ビジネスネーム)を使用できる
- 青色申告・白色申告の選択: 記帳方法により税制上の優遇が異なる
個人事業主に関連する制度
- 青色申告制度: 複式簿記で記帳し、最大65万円の特別控除などの優遇を受けられる
- 事業主控除: 事業用の経費を売上から差し引くことができる
- 小規模企業共済: 個人事業主向けの退職金制度に加入できる
- 国民年金基金: 将来の年金を上乗せする制度に加入できる
- 経営セーフティ共済: 取引先の倒産時に融資が受けられる制度
個人事業主と一般的な雇用との違い
個人事業主は自分自身が経営者であり、労働者でもあります。
つまり、自分の判断で事業を進め、その結果の全責任を負う立場です。
会社員のような雇用保険や厚生年金はなく、すべて自己負担・自己管理となります。
その反面、事業の規模拡大や収入増加に制限がないという大きなメリットもあります。
フリーランスと個人事業主の違いを表で整理
両者の違いをより明確に理解するために、主要な項目ごとに比較してみます。
項目 | フリーランス | 個人事業主 |
---|---|---|
定義 | 働き方を表す一般的な呼称 | 税法上の事業者としての正式な分類 |
法的地位 | 法律での明確な定義はない | 税法上の「事業者」として定義されている |
開業届 | 必須ではない(出さなくても名乗れる) | 原則として提出が必要 |
確定申告 | 収入があれば必要 | 必須(青色申告または白色申告) |
屋号(商号) | 使用可能だが法的な登録ではない | 開業届で正式に登録できる |
社会的信用 | やや弱い(契約書類などで証明しづらい) | 開業届や青色申告承認などで証明可能 |
銀行口座開設 | 個人口座のみ使用可 | 事業用口座の開設が可能 |
住宅ローン等 | 収入の証明が難しい場合がある | 確定申告書で収入証明が可能 |
助成金・補助金 | 対象外となるケースが多い | 対象となることが多い |
経費処理 | 収支内訳書レベルの簡易な処理 | 青色申告なら専門的な経理が可能 |
こちらの表からわかるように、「フリーランス」は働き方を表す言葉であり、「個人事業主」は税務上の立場を表す言葉です。
つまり、厳密に言えば併用も可能です。
「フリーランスとして働く個人事業主」という表現は矛盾せず、むしろ正確な表現と言えるでしょう。

自分はどちらになるべき?ケース別判断
では、実際にあなたはどちらを選ぶべきなのでしょうか?
様々なケースに応じた判断基準を紹介します。
副業から始める場合
副業程度の小規模な活動の場合
- 年間の売上が数十万円程度
- 本業があり、空いた時間で仕事を受ける程度
- クライアントも1〜2社程度
→ 開業届を出さずに「フリーランス」として活動し、確定申告は「雑所得」として行うケースが多い
副業でも本格的に取り組む場合
- 将来的に独立を考えている
- すでに安定した顧客がいる
- 売上が年間50万円を超える見込み
→ 開業届を出して「個人事業主」となり、青色申告で経費計上のメリットを受けるのがおすすめ
独立・専業で始める場合
独立したばかりの場合
- これから顧客開拓をする段階
- 事業の継続性がまだ不確定
- 収入が安定していない
→ まずは開業届を出して「個人事業主」となり、税制上の優遇を受けながら基盤を固めるべき
本格的に事業を展開する場合
- 複数の安定した顧客がいる
- 売上が年間数百万円以上ある
- 将来的に事業拡大や人の雇用も視野に入れている
→ 「個人事業主」として開業届を出し、青色申告を選択。将来的には法人化も検討
判断のためのフローチャート
自分がどちらの道を選ぶべきか、以下のフローチャートで確認してみましょう。
- 現在の状況は?
- 会社員として副業から始める → 2へ
- 完全に独立して専業でやる → 5へ
- 副業の年間売上見込みは?
- 20万円未満 → 3へ
- 20万円以上 → 4へ
- 今後の展望は?
- 小規模な副業のまま → 開業届なしでOK(確定申告は必要)
- 将来的に拡大したい → 4へ
- 経費計上の必要性は?
- 経費はほとんどない
→ 開業届なしでも可(雑所得で申告) - 経費を計上したい
→ 開業届を出して個人事業主に(青色申告がおすすめ)
- 経費はほとんどない
- 事業の規模感は?
- 小規模でシンプルに
→ 開業届を出して個人事業主に - 大きく展開したい
→ 開業届+青色申告で個人事業主から始め、将来は法人化も検討
- 小規模でシンプルに
- 融資や公的支援は?
- 必要ない
→ どちらでも可 - 必要になる可能性あり
→ 開業届を出して個人事業主になるべき
- 必要ない
このフローチャートはあくまで一般的な判断基準です。
最終的には税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

フリーランス・個人事業主になる際の実務的なステップ
実際にフリーランスや個人事業主として活動を始める際には、いくつかの手続きが必要です。
ここでは基本的なステップを解説します。
開業前の準備
- 事業計画の策定
- どんなサービスを提供するか
- ターゲット顧客は誰か
- 価格設定はどうするか
- 競合との差別化ポイントは何か
- 必要なスキル・資格の確認
- 業種によっては特定の資格が必要な場合がある
- スキルアップが必要な分野の洗い出し
- 資金計画
- 開業資金はいくら必要か
- 当面の生活費はどうするか
- 緊急時の備えはあるか
開業時の手続き
- 開業届の提出(個人事業主になる場合)
- 事業開始から1ヶ月以内に税務署へ提出
- 屋号(商号)の決定
- 事業内容の明確化
- 青色申告承認申請書の提出(青色申告を選択する場合)
- 開業から2ヶ月以内、または翌年3月15日までに提出
- その他の届出
- 事業内容によっては保健所や都道府県知事への届出が必要な場合も
- 従業員を雇う予定がある場合は社会保険関係の手続きも
開業後の実務
- 帳簿付けと経理
- 日々の取引の記録
- 領収書や請求書の保管
- 専用の経理ソフトの利用も検討
- 確定申告
- 毎年2月16日〜3月15日に前年分の確定申告
- 青色申告の場合は複式簿記による記帳
- 消費税の申告(該当する場合)
- 前々年の売上が1,000万円を超えると課税事業者に
よくある質問(FAQ)

フリーランスでも開業届は出したほうがいいですか?
厳密には「フリーランス」という働き方をしていても開業届を出す法的義務はありませんが、
以下の理由から出すことをおすすめします。
・経費計上が認められやすくなる
・融資や住宅ローンの審査で有利になる
・助成金や補助金の対象になりやすい
・取引先からの信用が高まる
特に、年間の売上が50万円を超える見込みがあれば、
開業届を出して個人事業主になることで税制上のメリットを受けられます。


開業届を出さずにフリーランスとして活動するとどうなりますか?
開業届を出さなくても、フリーランスとして活動すること自体は可能です。
その場合の収入は「雑所得」として確定申告する必要があります。
ただし、以下のデメリットがあります。
・事業関連の経費控除が認められにくい場合がある
・融資や各種支援制度の対象外となることが多い
・取引先への信用度が低くなる可能性がある
・事業用の銀行口座開設が難しい


個人事業主になると税金が高くなりますか?
必ずしも高くなるとは限りません。
むしろ、青色申告を選択すれば最大65万円の特別控除が受けられたり、
事業に関連する経費を幅広く計上できるため、
適切に経理をすれば税負担が軽減される可能性が高いです。
ただし、会社員と異なり社会保険料は全額自己負担となります。


フリーランスから個人事業主に「転向」することはできますか?
「フリーランス」は働き方、「個人事業主」は税法上の立場なので、
転向というより「フリーランスとして働く個人事業主になる」と考えるのが正確です。
開業届を税務署に提出すれば、その時点で個人事業主となります。


個人事業主とフリーランス、どちらが社会的信用が高いですか?
一般的には、開業届を出して確定申告をきちんと行っている個人事業主の方が、銀行や取引先からの信用は高くなります。
特に契約書や請求書に屋号を使用できる点や、青色申告による正式な帳簿付けが信用につながります。

呼び方にこだわるより「制度の理解」が鍵
制度面の比較表
✗=不可、△=一部可、✓=可能
比較項目 | フリーランス | 個人事業主 |
---|---|---|
開業届提出 | ✗ | ✓ |
青色申告特典 | ✗ | ✓ |
屋号使用 | △ | ✓ |
融資・補助金対象 | ✗ | ✓ |
社会的信用 | △ | ✓ |
- フリーランス:特定の企業に属さない自由な「働き方」を表す一般的な呼称
- 個人事業主:開業届を提出し、税法上「事業者」として認められた正式な立場
この2つは対立する概念ではなく、重なり合う部分を持っています。
つまり、「フリーランスとして働く個人事業主」という立場が最も一般的で、制度上のメリットも最大限に受けられる形態と言えるでしょう。
独立して働く際に大切なのは、肩書きよりも制度をきちんと理解し、自分の状況に最適な選択をすることです。
特に起業初期段階では、しっかりと開業届を出して個人事業主となり、
青色申告を選択することで、税制上の優遇措置を最大限に活用することをおすすめします。
また、独立して働く道を選んだ場合、常に自分自身の「経営者」であるという意識を持つことが重要です。
収入管理、スキルアップ、営業活動、健康管理まで、すべて自分自身の責任となります。
自由な働き方には責任も伴いますが、自分らしいキャリアを築くためのやりがいも大きいものです。
この記事が、あなたのフリーランス・個人事業主としての一歩を踏み出す手助けになれば幸いです。