「今年の税金は、思っていたより高いかもしれない」
年の終わりが近づくと、そんな不安が頭をよぎる個人事業主の方は少なくありません。
会社員のころは、税金の計算も納付も会社が行っていました。
独立すると、売上から経費を差し引き、税額を自分で確定させる立場に変わります。
その責任の重さから、税金の話を後回しにしてしまう方もいます。
この記事で扱う『節税』とは、法律で認められた制度を正しく使い、税負担を適正な範囲まで抑えることを指します。
売上を隠したり、実際にはない経費を計上したりする『脱税』とは、まったく異なる行為です。
脱税は違法であり、節税とは線引きされています。
この記事では、税金が決まる仕組みを整理したうえで、個人事業主が1年目から取り入れやすい節税の方法と、注意しておきたい点をまとめました。
税金は、どのような仕組みで決まるのか
節税の方法を知る前に、所得税の計算の流れを確認します。
流れが分かると、どこに働きかけると税額が変わるのかが見えてきます。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 所得を求める | 売上(収入)から必要経費を差し引く |
| 2. 課税所得を求める | 所得から、各種の所得控除を差し引く |
| 3. 税額を求める | 課税所得に税率をかける |
| 4. 納める税額を求める | 税額から、税額控除などを差し引く |
所得税の税率は、課税所得が大きくなるほど段階的に高くなる仕組みで、5%から45%まで7つの段階があります。
これに加えて、所得税額の2.1%にあたる復興特別所得税と、課税所得に対して原則10%の住民税がかかります。
つまり、節税の働きかけ先は大きく3つあります。
1つ目は、必要経費を漏れなく計上すること。
2つ目は、所得控除を活用して課税所得を小さくすること。
3つ目は、青色申告など、税負担を軽くする制度を選ぶことです。
経費と所得控除は、どちらも課税所得を小さくしますが、性質が異なります。
経費は事業の活動にかかった支出、所得控除は個人の状況に応じて受けられる控除です。
この違いを押さえておくと、書類のどこに何を記載するのかで迷いにくくなります。
節税の入口は『青色申告』

個人事業主が最初に検討したい節税策が、『青色申告』です。
事前に『開業届』と『青色申告承認申請書』を税務署に提出し、一定の要件で帳簿をつけると、さまざまな特典を受けられます。
青色申告で受けられる主な特典
- 青色申告特別控除:令和9年分以降、電子申告(e-Tax)などの要件を満たすと最大75万円を所得から差し引けます
- 純損失の繰越控除:赤字になった年の損失を、翌年以降3年間にわたって黒字と相殺できます
- 少額減価償却資産の特例:一定額未満の資産を購入した年に、まとめて経費にできる制度です
(金額や期限は改正されることがあるため、最新の内容は国税庁で確認します)
紙の帳簿などで申告する場合の控除額は10万円にとどまります。
控除額の差は、課税所得に直接影響します。
会計ソフトでの記帳と電子申告を前提に準備を進めると、この差を活かしやすくなります。
白色申告の場合も、記帳と帳簿の保存は必要で、控除などの特典はありません。
青色申告は記帳に手間がかかるのではと不安になる方もいますが、会計ソフトを使えば、日々の取引を入力するだけで複式簿記の形に整います。
手間と効果のバランスを見ながら、選択を検討します。
『青色申告承認申請書』の提出期限は、原則として開業日から2か月以内です。
期限を過ぎると、その年は青色申告を選べません。
開業届とあわせて、提出の予定日を手帳やカレンダーに記録しておく形が確実です。
必要経費の漏れを防ぐ
必要経費とは、事業を行うために必要な支出を指します。
経費が正しく反映されていないと、実際より所得が大きくなり、その分の税負担も増えます。
節税の基本は、特別な方法を探すことよりも、使った経費を漏れなく記録することにあります。
| 経費にしやすいもの | 注意が必要なもの |
|---|---|
| 仕事で使う通信費、交通費、消耗品費 | 仕事と私用の両方で使うスマートフォンや自宅の家賃(家事按分が必要) |
| 仕事に必要な書籍代、研修費、ソフトウェア利用料 | 仕事との関係を説明しにくい飲食費 |
| 事業に関する打ち合わせの飲食代 | プライベートの食事や贈答 |
| 開業前に事業の準備のために支払った費用 | 生活費全般 |
とくに迷いやすいのは、事業主本人に関わる支出です。
自分自身への給料にあたる金額は、経費にはなりません。
国民健康保険料や国民年金保険料も、経費ではなく後述する所得控除の対象になります。
所得税や住民税、罰金や過料も、経費には含められません。
判断に迷う支出は、金額や日付、事業との関係を一言メモに残しておく習慣が助けになります。
あとから説明できる状態にしておくことが、経費計上の土台になります。
所得控除を使い切る

所得控除とは、所得から一定額を差し引くことで、課税所得を小さくする制度です。
経費と違って事業の支出とは関係なく、個人の状況に応じて受けられます。
個人事業主が活用しやすい代表的なものを挙げます。
個人事業主が活用しやすい所得控除
- 社会保険料控除:国民健康保険料や国民年金保険料の支払額が、全額対象になります
- 小規模企業共済等掛金控除:『小規模企業共済』や『iDeCo(個人型確定拠出年金)』の掛金が、全額対象になります
- 生命保険料控除:一定の保険料を支払っている場合に、上限の範囲で受けられます
- 医療費控除:年間の医療費が一定額(原則10万円)を超えた場合に、超えた部分が対象になります
- 寄附金控除:ふるさと納税の寄附額から、自己負担の2,000円を除いた部分が対象になります
『小規模企業共済』は、個人事業主の退職金にあたる制度で、掛金は月1,000円から70,000円の範囲で選べます。
加入できるのは、個人事業主や小規模企業の役員など、一定の条件を満たす方です。
『iDeCo』は、自分で積み立てる私的年金で、掛金の上限は加入している年金の種類によって異なります。
どちらも将来の備えと節税を同時に進められますが、原則として途中で自由に引き出せない点に注意が必要です。
生活資金に余裕を残したうえで、無理のない掛金を選びます。
ふるさと納税は、確定申告をする個人事業主の場合、『ワンストップ特例』を使えません。
確定申告の際に、寄附金控除として申告する必要があります。
寄附の限度額は所得によって変わるため、利用前に目安を確認しておきます。
節税額の目安を、具体例で確認する
経費や控除が増えると、実際にどのくらい税負担が変わるのでしょうか。
課税所得が300万円の方を例に、目安を確認します。
課税所得300万円の場合、所得税の税率は10%の区分にあたります。
仮に、経費の計上漏れが10万円分見つかったとします。
課税所得は290万円に下がり、同じ10%の区分のままなので、所得税が約1万円、復興特別所得税が約210円、住民税が約1万円減ります。
合計すると、約2万円の税負担が軽くなる計算です。
ここで押さえておきたいのは、節税は『お金を使うほど得をする』ものではないという点です。
10万円を使って戻ってくるのは、そのうちの約2万円にすぎません。
節税を目的に不要な支出を増やすと、手元に残るお金は減ってしまいます。
節税の本質は、必要な支出を漏れなく反映し、使える制度を取りこぼさないことにあります。
やってはいけない節税
税金を減らしたい気持ちが強いと、線を越えてしまう場面があります。
次のような行為は、節税ではなく脱税や不適切な申告にあたります。
- 実際には支払っていない費用を、経費として計上する
- 売上の一部を記録せず、申告から外す
- 領収書の日付や金額を書き換える
- 私的な支出を、事業の経費として混ぜる
税務署から問い合わせや調査が入った場合、根拠となる帳簿と領収書の提示を求められます。
追加の税金に加えて、加算税などの負担が生じることもあります。
後から説明できる記録を残すことが、結果として自分を守ることにつながります。
判断が分かれる支出は、事業との関係を説明できるかどうかを基準に考えます。
説明できない支出は、無理に経費へ含めず、保留にして確認します。
判断に迷う場面では、税務署の相談窓口や税理士に確認する方法があります。
自己判断で進めるよりも、確認してから進めるほうが、安心して事業に集中できます。
年間のスケジュールで見る節税の準備

節税は、申告の直前に慌てて行うものではなく、1年を通じて少しずつ整えるほど効果が安定します。
時期ごとの準備の目安をまとめました。
| 時期 | 準備すること |
|---|---|
| 開業時 | 開業届と青色申告承認申請書を提出する |
| 毎月 | 収入と経費を記帳し、領収書を整理する |
| 秋ごろ | その年の所得の見込みを確認し、使える控除を洗い出す |
| 12月 | 共済やiDeCoの掛金、ふるさと納税など、年内に手続きが必要なものを確認する |
| 2月中旬〜3月中旬 | 確定申告書を作成し、提出する |
とくに年末は、『その年の支払いか、翌年の支払いか』で扱いが変わるものが多くあります。
掛金の払込や、事業に使う備品の使用開始日が12月31日までかどうかで、その年の控除や経費に含められるかが決まります。
秋ごろに一度、見通しを確認しておくと、年末に慌てずに済みます。
開業した年は、年の途中から事業が始まるため、課税所得が小さくなりやすい傾向があります。
課税所得が小さい年は、控除を使い切れない場合もあるため、無理に掛金を増やさず、翌年以降の見通しも踏まえて検討します。
今日から始める3つの行動
情報が多いと、何から手をつければよいか迷います。
まずは、次の3つから始めると、負担が少なく進められます。
最初に取り組みたい3つ
- 開業届と青色申告承認申請書を提出済みか、控えを見て確認する
- 経費にできる支出を、領収書やメモで記録するルールを決める
- 国民年金や国民健康保険のほかに、使える控除がないかを一覧にする
制度の内容や金額は、税制改正によって変わることがあります。
実際に手続きを進める際は、国税庁の最新の案内を確認します。
この記事のポイント
- 節税は法律で認められた制度を使うことで、脱税とは異なる行為です
- 働きかける先は、必要経費、所得控除、青色申告などの制度の3つです
- 青色申告は、開業届と承認申請書を事前に提出して初めて選べます
- 経費は、特別な工夫よりも、漏れなく記録することが基本です
- 小規模企業共済やiDeCoは、節税と将来の備えを同時に進められます
- 節税額は支出の一部にとどまるため、不要な支出を増やす必要はありません
- 年末に慌てないよう、秋ごろに控除の洗い出しを済ませます
今年使った支出のなかに、まだ記録できていない経費はありませんか。
手元の制度のうち、まだ確認していないものはどれでしょうか。