開業届は出したけど、ほかに何か手続きが必要なのかな。
何から始めればいいのかよくわからなくて。
個人事業主としての第一歩を踏み出した直後、こんな状態になる人は少なくありません。
開業届はゴールではなく、スタートラインです。
届を出した後にやるべき手続きや準備が複数あり、それらを後回しにすると、税金・保険・帳簿といった面で後から困ることがあります。
この記事では、個人事業主になったら最初にやること10項目を、優先度の高い順にリスト形式でお伝えします。
チェックリストとして使いながら読み進めてみてください。
「すでにやった」「まだやっていない」を確認しながら読むと、抜け漏れが見えてきます。
まず確認:開業届は出しましたか?
10のリストに入る前に、前提として確認しておきたいことがあります。
個人事業を始めたら、原則として1ヶ月以内に税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を提出する必要があります。
まだの方は、これが最初の一歩です。
開業届の提出は義務ですが、提出しなくても罰則はありません。
ただし、提出することで青色申告が選択できるようになり、節税メリットが大きくなります。
副業であっても開業届を出すことで、経費の幅が広がります。
個人事業主になったら最初にやること10のリスト

青色申告承認申請書を提出する
開業届と同時に、または開業から2ヶ月以内に提出が必要な書類です。
青色申告を選択することで、現行(令和8年分まで)は最大65万円の青色申告特別控除が受けられます。
さらに令和9年分以後は、e-Tax申告に加えて優良な電子帳簿保存の要件を満たすことで最大75万円に引き上げられる予定です(2025年12月公表の税制改正大綱より)。
この控除を活用するだけで、所得税・住民税・国民健康保険料が大幅に抑えられます。
なお、書面申告を続けた場合は令和9年分以後に控除額が現行の55万円から10万円へと大幅に下がる予定のため、e-Tax申告への移行を早めに準備しておくことをお勧めします。
「青色申告は難しそう」と感じる方もいますが、会計ソフトを使えば帳簿管理は思ったより複雑ではありません。
開業と同時に申請しておくことで、その年から節税の恩恵を受けられます。
提出先は開業届と同じ税務署で、国税庁のWebサイトからe-Taxで電子提出も可能です。
国民健康保険・国民年金の切り替え手続きをする
会社員を辞めて独立した場合、退職日の翌日から健康保険の切り替えが必要です。
選択肢は「国民健康保険への加入」または「任意継続被保険者制度の利用(最大2年間)」の2つです。
どちらが有利かは保険料の比較が必要なため、退職前に試算しておきましょう。
国民年金への切り替えは、退職後14日以内に市区町村の窓口で手続きします。
副業として開業する場合(会社員を継続する場合)は、健康保険・年金の切り替えは不要です。
ただし、副業収入が増えた場合の社会保険の扱いは注意が必要なため、状況に応じて確認しておきましょう。
事業用の銀行口座を開設する
事業用と個人用の口座を分けておくことで、収支の管理がしやすくなります。
確定申告の際にも、事業の入出金だけをまとめて確認できるため、帳簿作成の手間が大幅に減ります。
「屋号付き口座」(氏名+屋号で名義を登録できる口座)はメガバンク・ネット銀行とも対応しています。
ただし近年は法令による本人確認・審査の厳格化が進んでおり、開業届・事業実態を示す書類の提出を求められるケースが増え、審査に2週間以上かかる場合もあります。
開業直後で実績がない時期は審査が通りにくいこともあるため、屋号付きにこだわりがなければ、まずは個人名義の事業専用口座から始めるのが現実的です。
屋号付き口座を目指す場合は、GMOあおぞらネット銀行・楽天銀行などのネット銀行がオンラインで手続きしやすい傾向があります。
いずれにしても、開業届の控えは屋号の証明書類として求められることがあるため、必ず手元に保管しておきましょう。
事業用クレジットカードを作る
事業用の支出をクレジットカード1枚にまとめることで、経費管理がシンプルになります。
カードの明細が自動的に経費の記録になるため、帳簿入力の手間が減ります。
会計ソフトと連携できるカードを選ぶと、さらに効率が上がります。
個人用カードと事業用カードを分けておくことで「どれが経費か」を後から仕分けする手間もなくなります。
開業したばかりで審査が不安な場合は、デビットカードや法人向けプリペイドカードを活用する方法もあります。
会計ソフトを導入して帳簿の準備をする
青色申告をするためには、複式簿記による帳簿作成が必要です。
以前は「帳簿は難しい」というイメージがありましたが、近年の会計ソフトはAI機能が充実しており、以前より大幅に簡単に扱えるようになっています。
freee・マネーフォワードクラウド・弥生会計などが個人事業主向けの主なソフトです。
AI機能で何が変わったか
現在の会計ソフトのAI機能を使うと、以下のことが自動または半自動でできます。
- 銀行口座・クレジットカードの明細を自動取り込み・自動仕訳
- レシートをスマホで撮影するだけで金額・日付・店名を読み取り入力
- 過去の仕訳パターンから勘定科目を自動提案
- 確定申告書類(青色申告決算書・確定申告書)の自動生成
- e-Tax連携による電子申告(控除額の最大化につながる)
これらを活用することで、毎月の記帳作業を大幅に短縮できます。
開業したタイミングから導入しておくと、後から過去の入出金を遡る必要がなくなります。
AI活用の注意事項
AIが便利になった分、過信によるミスも起きやすくなっています。
以下の点は必ず意識しておきましょう。
- 自動仕訳は必ず自分で確認する
AIが提案する勘定科目が常に正しいとは限りません。
特に「交際費か会議費か」「家事按分が必要な費用か」などの判断は、最終的に自分(または税理士)が確認する必要があります。 - 税法の解釈はAIに頼りすぎない
ChatGPTやClaudeに「これは経費になりますか?」と聞くことはできますが、回答が常に最新の税制を反映しているとは限りません。
判断に迷う場合は税務署や税理士に確認しましょう。 - 電子帳簿保存法の要件は別途確認が必要
AI機能を使っても、電子帳簿保存法の「優良な電子帳簿」の要件を満たしているかどうかは別に確認が必要です。
令和9年分以後の75万円控除を受けるには、この要件を満たすことが条件になります。 - 領収書の保管義務はなくならない
デジタル入力が便利でも、紙の領収書は原則7年間の保管義務があります(電子帳簿保存法の要件を満たして電子保存する場合は除く)
「AIが自動でやってくれたから大丈夫」と放置せず、月に一度は記帳内容を見直す習慣をつけておくことが、確定申告直前の慌てを防ぐ一番の対策です。

屋号を決める
屋号とは、個人事業主が使う事業上の名前のことです。
必須ではありませんが、屋号があることで取引先への印象が高まり、事業としての一体感も生まれます。
開業届に記載する欄がありますが、後から変更することも可能です。
屋号を決める際は、事業の内容や方向性がイメージできるものにすると、認知されやすくなります。
商標権の観点から、既存のブランド名と似た名前は避けましょう。
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で類似商標の確認ができます。
名刺・プロフィールを整える
個人事業主として活動する際に、名刺や自己紹介ページは「顔」になります。
名刺には屋号・氏名・連絡先・事業内容を記載します。
Webサービスを活用するなら、SNSのプロフィールやnote・自社サイトの整備も早めに進めておきましょう。
「まだ実績がないから」と後回しにする人も多いですが、プロフィールは実績ができてから整えるより、今の段階でまず作っておく方がよいです。
「これから〇〇を届けていきます」という姿勢を示すだけでも、存在を知ってもらうきっかけになります。
インボイス(適格請求書)登録を検討する
2023年10月から始まったインボイス制度に対応するため「適格請求書発行事業者」の登録が必要かどうかを確認しましょう。
登録するかどうかは、取引先が課税事業者かどうかによって変わります。
BtoB取引(企業や個人事業主相手のビジネス)が多い場合は、登録しないと取引先が消費税の仕入税額控除を受けられなくなるため、取引を断られる可能性があります。
一方、BtoC取引(一般消費者向けのビジネス)が中心の場合は、登録の必要性が低くなります。
自分の取引先の状況を確認したうえで判断しましょう。
小規模企業共済への加入を検討する
小規模企業共済は、個人事業主・フリーランスのための「退職金代わりの積立制度」です。
月1,000円から積み立て可能で、掛け金は全額所得控除の対象になります。
廃業・引退時に共済金として受け取れるほか、病気やケガで事業を休止した際にも受け取れます。
また、積み立てた掛け金の範囲内で低金利の貸付(契約者貸付)も利用できます。
節税・老後の備え・緊急時の資金調達という3つの機能を兼ね備えた制度です。
開業したタイミングで加入を検討しておくと、積み立て期間が長くなるほど受取額も増えます。
▶ 参考:小規模企業共済とは|中小企業基盤整備機構
緊急資金の積み立てを始める
個人事業主には、会社員のような傷病手当金や雇用保険がありません。
体調を崩した月や、仕事が少ない月に備えるための「緊急資金」を、早い段階から積み立て始めましょう。
目標は生活費の3〜6ヶ月分です。
副業収入の一定割合(例:30%)を毎月別口座に移す仕組みを作るだけで、意識しなくても積み上がっていきます。
緊急資金がある状態とない状態では、事業を続けることへの安心感がまったく変わります。
「今は収入が少ないから後で」ではなく、少額でも今から始めることが重要です。
10項目を一覧で確認する

最後に、10項目をまとめておきます。
優先度の高いものから順に並べています。
「いつまでにやるか」を意識しながら確認してみてください。
- 青色申告承認申請書の提出(開業から2ヶ月以内)
- 国民健康保険・国民年金の切り替え(退職後14日以内)
- 事業用口座の開設(なるべく早く)
- 事業用クレジットカードの作成(口座開設後)
- 会計ソフトの導入(開業と同時が理想)
- 屋号の決定(開業届と同時または後日)
- 名刺・プロフィールの整備(活動開始前)
- インボイス登録の検討(取引先の状況に合わせて)
- 小規模企業共済への加入検討(開業後なるべく早く)
- 緊急資金の積み立て開始(今すぐ)
すべてを一度に完璧に終わらせる必要はありません。
期限があるものから優先的に進め、残りは1ヶ月以内を目安に順番に対応していきましょう。
開業後によくある失敗と対策
開業後の手続きを進める中で、多くの人が同じようなミスをしています。
あらかじめ知っておくことで、防げる失敗があります。
失敗① レシート・領収書をためてしまう
「後でまとめて記録しよう」と思ってレシートをためていると、気づいたら山積みになっていることがあります。
経費の記録は、支出したその日か翌日に入力する習慣をつけましょう。
スマホで撮影してクラウドに保存できる会計ソフトを活用すると、その場で処理できて楽になります。
失敗② 税金の取り置きを忘れる
副業収入や事業収入が入ったとき、すべて使ってしまうと確定申告で納税するお金がなくなります。
収入の20〜30%は税金用として別口座に移す習慣を、最初から作っておきましょう。
特に初年度は、どのくらいの税額になるか予測しにくいため、多めに取り置いておくと安全です。
失敗③ 社会保険の切り替えを後回しにする
退職後に健康保険・年金の切り替えを忘れたり、後回しにしたりすると、無保険期間が生じる可能性があります。
退職日の翌日から14日以内に手続きを行うことが原則です。
役所の窓口は混むことがあるため、退職前に必要書類を確認しておくとスムーズに進められます。
開業後の手続きは、知らないと後から困るものが多くあります。
このリストの中で、まだ手をつけていない項目はいくつありましたか?
この記事のポイント
- 開業届の提出後にやるべきことは10項目あり、期限があるものから優先して進める
- 青色申告承認申請書は開業から2ヶ月以内の提出が必要。
現行は最大65万円、令和9年分以後はe-Tax+電子帳簿保存で最大75万円(予定)の控除が受けられる - 事業用口座・カード・会計ソフトは早めに整えるほど、帳簿管理の手間が減る
- インボイス登録は取引先がBtoBかBtoCかによって必要性が変わるため、状況を確認して判断する
- 小規模企業共済と緊急資金の積み立ては、開業と同時に始めることで将来の安心につながる