お金と帳簿

個人事業主が体調を崩したときの資金対策|使える制度と事前の備え方

「先週から体調が悪くて、仕事がほとんどできていない」
そんな状況になったとき、会社員であれば有給休暇や傷病手当金という制度がありますが、個人事業主にはそれがありません。
体調を崩したその日から、収入が止まります。
でも家賃や光熱費、ソフトウェアの利用料といった固定費は待ってくれません。

もし病気で1ヶ月動けなくなったら、どうやって生活費を確保すればいいんだろう…。
副業や独立を検討しているとき、こんな不安を感じる方は少なくありません。
そしてその不安は、現実に起き得ることです。

この記事では、個人事業主が体調を崩して収入が減った・または途絶えたときに使える資金対策を「事前の備え」と「なってからの対処」に分けて具体的にお伝えします。
独立前に知っておくことで、いざというときの選択肢が大きく変わります。

個人事業主が体調を崩すとどうなるのか

まず、実際に何が起きるかを整理しておきましょう。
会社員との違いを知っておくことが、備えの第一歩です。

収入がすぐに止まる

会社員が病気で休んでも、健康保険から最大1年6ヶ月間、給与の約2/3が傷病手当金として支給されます。
しかし国民健康保険に加入している個人事業主には、原則としてこの制度がありません。

仕事ができない日=収入がゼロになる日、という現実があります。
フリーランスで月単位の契約をしている場合でも、稼働できなければ更新されなかったり、プロジェクトを離脱せざるを得なくなる場面もあります。

固定費は止まらない

収入が止まっても、毎月出ていくお金は変わりません。
家賃・光熱費・通信費・各種サブスクリプション・国民年金・国民健康保険料…これらは仕事の有無に関係なく請求され続けます。

貯蓄がなければ、1〜2ヶ月で資金繰りに詰まる可能性があります。
特に起業初期は収入が安定しにくいため、このリスクはより高くなります。

体調不良中は融資審査が通りにくい

体調を崩して収入が激減しているタイミングは、金融機関にとって「融資リスクが高い状態」と判断されます。
いざお金を借りようとしても、審査が通りにくくなるケースが少なくありません。

だからこそ、元気なうちに備えておくことが何より大切です。
「今は健康だから大丈夫」という状態のときこそ、動ける時間があります。

事前にできる3つの備え

個人事業主の体調リスクに対する備えは、大きく3つに分けられます。
どれも「今すぐ始められること」ばかりです。

① 生活費3〜6ヶ月分の緊急資金を確保する

もっとも基本的な備えは「手をつけないお金」を手元に置いておくことです。

目安は生活費の3〜6ヶ月分。
たとえば月の生活費が15万円なら、45〜90万円を手をつけない口座にキープしておきます。
この資金は事業用口座とは別の個人口座に置いておくと管理しやすくなります。
すぐに引き出せる普通預金がベストで、「ないものとして扱う」意識を持つことが大切です。

一度に用意するのが難しければ、毎月一定額を積み立てる方法でも構いません。
副業収入が入ったタイミングで少しずつ積み上げていくと、半年〜1年でまとまった金額になります。

② 就業不能保険・所得補償保険に加入する

病気やケガで働けなくなったときに、毎月一定額が支給される民間保険です。
「就業不能保険」「所得補償保険」などと呼ばれ、個人事業主でも加入できます。

保険料は月数千円〜1万円程度が一般的で、入院だけでなく在宅療養中でも支給されるタイプが増えています。
支給額は月10〜20万円程度を設定できる商品が多く、生活費をカバーする水準に設定しておくと安心です。

注意点として、持病がある場合は加入できなかったり、免責期間(支給が始まるまでの待機期間)が60〜180日設定されている場合があります。健康なうちに加入しておくことが前提なので、副業・起業を始めるタイミングで一緒に検討しておくのがおすすめです。

③ 小規模企業共済に加入して積み立てる

小規模企業共済は、個人事業主・フリーランスのための「退職金代わりの積立制度」として知られていますが、病気・ケガで事業を休止・廃業した場合にも共済金を受け取ることができます。

さらに、積み立てた金額の範囲内で低金利(年1.5%)の貸付(契約者貸付)を利用できます。
月1,000円から積み立て可能で、掛け金は全額所得控除の対象になるため、節税しながら「もしもの資金」を育てられる制度です。

元気なうちから少額でも積み立てておくと、いざというときに頼れる資金源になります。
起業と同時に加入を検討したい制度のひとつです。

▶ 参考:小規模企業共済とは|中小企業基盤整備機構

体調を崩した後に使える資金調達方法

事前の備えが十分でなかった場合や、想定以上に療養が長引いた場合に利用できる制度を紹介します。
それぞれの特徴と利用条件を把握しておきましょう。

日本政策金融公庫の「セーフティネット貸付」

日本政策金融公庫は国が運営する政策金融機関で、個人事業主・小規模事業者への融資に積極的です。

「セーフティネット貸付(経営環境変化対応資金)」は、売上が減少するなど経営環境が変化した事業者を対象とした融資制度です。
体調不良を理由とした売上減少も対象になり得ます。金利は1〜3%台が多く、民間銀行より低い傾向があります。

審査には直近の確定申告書・売上が落ちた理由の説明・事業計画書などが必要です。
融資まで2〜4週間程度かかるため、緊急性が高い場面には向きませんが、まとまった資金を確保したい場合の選択肢として有効です。

▶ 参考:経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)|日本政策金融公庫

小規模企業共済の「契約者貸付制度」

小規模企業共済に加入している場合、積み立てた掛け金の範囲内で低金利(年1.5%)の貸付を受けることができます。

審査がほぼなく、申請から数日〜1週間程度で振り込まれる点が大きなメリットです。
緊急性が高い場面の「つなぎ資金」として非常に頼りになる制度です。
ただし、これは「事前に積み立てていること」が前提のため、やはり元気なうちからの加入が重要です。

▶ 参考:小規模企業共済とは|中小企業基盤整備機構

生活福祉資金貸付制度(社会福祉協議会)

収入が減って生活が苦しくなった場合に利用できる公的な貸付制度で、各都道府県の社会福祉協議会が窓口になっています。

「緊急小口資金(10万円以内)」や「総合支援資金(月20万円以内×最大3ヶ月)」などがあり、無利子または低利で借りられます。
所得が一定水準以下であることなどの条件がありますが、個人事業主・フリーランスでも利用できます。
金融機関からの融資が難しい状況のときに、まず相談してみる価値がある制度です。

▶ 参考:生活福祉資金貸付制度|厚生労働省 / 福祉の貸付制度|全国社会福祉協議会

信用保証協会の「セーフティネット保証」

売上が大幅に落ちた個人事業主が民間銀行から融資を受ける際に、信用保証協会が保証人になってくれる制度です。
通常の保証枠とは別枠で利用できるため、融資を受けやすくなります。

利用するには、まず市区町村の窓口(商工担当部署など)で認定を受ける必要があります。
手続きが複雑に見えますが、窓口で説明を受けながら進めることができます。
商工会議所や中小企業診断士に相談すると手続きがスムーズになります。

確認しておきたい給付・支援制度

借入(返済が必要)とは別に、返済不要の給付・支援制度も把握しておきましょう。
意外と見落とされている制度があります。

健康保険の任意継続者は傷病手当金が受給できる場合がある

国民健康保険には傷病手当金がありませんが、会社を退職したあと「任意継続被保険者」として以前の会社の健康保険を継続している場合は、傷病手当金を受給できるケースがあります。

退職後2年間は任意継続が可能です。
独立したばかりで任意継続を選んでいる方は、いざ体調を崩したときに申請できるか確認しておくと安心です。
保険組合によって対応が異なるため、加入している健康保険組合へ直接問い合わせてみましょう。

自治体独自の支援制度を調べる

地方自治体によっては、個人事業主・フリーランス向けの給付金・補助金・無利子融資を独自に設けている場合があります。
国の制度に比べて知名度が低く見落とされがちですが、お住まいの市区町村の産業振興課・商工会・商工会議所に問い合わせると情報が得られます。

「使えるかどうかわからないまま申請しない」より「まず聞いてみる」姿勢が大切です。
担当窓口は思った以上に親切に対応してくれます。

回復後の資金繰りを立て直す3ステップ

体調が回復したあとも、資金繰りの立て直しにはある程度の時間がかかります。
焦らず順序立てて進めましょう。

Step1. 固定費を見直す

療養中に気づいた「使っていないサブスク」「不要なサービス」を解約するところから始めます。
毎月出ていくお金を1万円でも減らすことで、回復後の資金的な余裕が生まれます。
固定費の見直しは、売上回復を待たずにすぐ効果が出る数少ない手段です。

Step2. 未払い・売掛金を確認する

療養中に請求できていなかった仕事の報酬や、未回収の売掛金がないかを確認します。
まとまった収入を取りこぼしているケースがあるため、まず帳簿と請求書の棚卸しをしましょう。
請求漏れが見つかれば、すぐに対応することで回収できます。

Step3. 顧客・取引先に状況を伝えてスモールスタートする

無理に仕事を全力再開しようとせず、まず現状を正直に伝えることが大切です。
信頼関係のある相手であれば、納期の調整や小さな仕事からの再開に応じてくれることが多いです。

「一度に全力でなくていい」という心構えは、回復期の体と資金繰りの両方を守ります。
小さく再開して少しずつ積み上げていく方が、長く続けられる結果につながります。

体調不良は「予測できないリスク」だからこそ、事前の備えに大きな価値があります。
今は元気でも、いざというときの選択肢を知っておくだけで、独立への一歩を踏み出す安心感がまったく変わります。

この記事のポイント

  • 個人事業主には傷病手当金がなく(国民健康保険の場合)、休んだ日から収入がゼロになるリスクがある
  • 事前の備えとして「緊急資金3〜6ヶ月分」「就業不能保険・所得補償保険」「小規模企業共済」の3つが有効
  • 体調を崩した後は、日本政策金融公庫・小規模企業共済の契約者貸付・生活福祉資金貸付制度などを活用できる
  • 独立直後に任意継続を選んでいる場合は、傷病手当金を受給できるケースがある
  • 回復後は「固定費見直し→売掛金確認→スモールスタート」の順で着実に立て直す

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